1.安定して働き続けるために
厚生労働省が平成30年に行った「労働安全衛生調査」では、働いている方のうち約60%の方が「強いストレスを感じている」と回答しました。主な内容としては、「仕事の質・量」「仕事の失敗、責任の発生等」「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」などが上位に挙がっています。
このような状況を考えると、復職にせよ再就職にせよ、全てのストレスを避けるのは困難かもしれません。とはいえ、必ずしもストレスがメンタル不調や休職に直結するわけではないという点に注意が必要です。同じ状況であっても、それが励みとなるかストレスとなるかは人によって異なります。その人の本来の適性によって生じるストレスもあれば、心身の状態や考え方によって生じるストレスもあります。
休職した原因を知ることは、自分がストレスを感じやすい状況や条件を把握することでもあります。そのようなストレスの基になりやすい物事に対して対策を練ることで、同じ状況に陥ることを避けたり、似たような状況になってもメンタル不調が再発しないように防いだりすることができます。
ただし、身近な人の喪失や、事故や災害の体験など、対策を練るのが難しいケースもあります。こうした要因からメンタル不調を発症した場合は、精神科医やカウンセラーなどの力を借りつつ、時間をかけて心の傷を癒していくことが大切です。
2.休職原因を分析する方法
休職した原因を見つめ直す際、注意したい点があります。それは、心身がある程度安定してから取り組むということです。十分に回復していない状態で行うと、精神状態が不安定になる可能性もあります。休職前のことを思い出して気分が悪くなるようであれば、まだ休職原因の分析をする段階ではないため、まずは回復に努めることが大切です。
休職原因の分析の際には、一般的に用いられる課題解決や原因分析の手法が応用できます。いわゆるロジックツリーや因果関係図、フィッシュボーンチャート、マインドマップ、カードや付箋を使うKJ法などさまざまな手法があります。ここでは、休職原因の分析という目的に沿った方法をご紹介します。
まずは、休職前の状況を紙に書き出します。業務内容・職場環境・対人関係・プライベート・ストレス要因など、それぞれについて変化や影響の大小にかかわらず全てリストアップします。
リストアップした事柄は、6W2Hを活用して具体的にまとめていきます。学校で教わる5W1HはWhen(いつ) Where(どこで)Who(誰が)What(何を)Why(なぜ)How(どのように)ですが、そこにWhom(誰に)How much(いくらで)を追加したものが6W2Hです。
Whom(誰に)とHow much(いくらで)を追加することで、「誰に対して感じたことか」「給与や手当に納得していたか」といった点にも目を向けることができます。
まとめていく中で休職原因に行き当たったら、家族や主治医など周囲の人たちと相談して一緒に対策を考えていきます。
この手順は一例ですので、他の手法を用いても問題ありません。どのような手法であっても覚えておきたいのは、取り組んでいるうちに「休職前の振り返りと反省」に意識が占められてしまいがちだという点です。あくまでも目的は「休職原因の分析」です。目的を見失わないように取むことが大切です。
2-1.休職期間中に対策をする
上述したように、何らかのストレスを感じることは働く上で避けられません。避けられないストレス要因が休職原因という場合は、復職後に備えて休職期間中に対策を考えることがポイントです。
古くから「木、強ければ即ち折らる」「柳に雪折れなし」といわれてきたように、近年ではストレス対処法を考える上で「レジリエンス」が注目されています。「レジリエンス」は、元々は物理学などの世界で「外から加わる力に対して形状を復元できる弾力性」という意味で使われていた言葉です。心理学においても同様に、ストレスを弾力的に受け止めてしなやかに回復する力を指します。
ストレスは、必ずしも悪いものではありません。同じ「昇進」という出来事でも、人によって受け止め方やストレスの有無は異なります。「自分の責任で新しいことに取り組める」と考えれば励みになり、「責任が増えたのだから絶対に失敗できない」と受け止めれば重圧になります。もしも重圧を感じたとしても、誰かに相談することで「失敗できない」という考え方を「失敗は成功の基だ」「失敗を防ぐために人の力を借りよう」と変化させることもできます。
このように、ストレスに対処する行動を「コーピング」といいます。上述したレジリエンスは、「コーピングの手段を多く持ち、柔軟に回復に向かう力」ということもできます。レジリエンスは誰もが持っている力であり、意識して高めていくことができます。
休職期間中にレジリエンスを高めることは、復職や再就職をした後も安定して働くための精神的な基礎として重要です。ただし「良い(適度な)ストレス」になるか「悪い(過大な)ストレス」になるかは、その人の持つレジリエンス以外にもさまざまな要因が影響します。たとえばプライベートで問題を抱えていて昇進に対応する余裕がないという場合は、個人のレジリエンスで対処できる範囲を超えているといえます。そのようなときは、家族や企業と対策を相談する必要があります。
2-2.企業側と対策を相談する
休職原因によっては、企業側に対処を求めなければ改善が望めない場合もあります。「仕事の質・量」が原因だとしても、仕事のやりがいを見つめ直すことで解決できる問題なのか、それとも過重労働を課せられているのかでは対処方法が大きく異なります。問題によっては双方が歩み寄って解決できることもありますが、パワハラや性別、人種に関わる差別的扱いなど企業側が対処し、解消すべき問題もあります。
休職原因が解決していないのに復職してしまえば、再び同じ問題が起こる可能性があります。そのため、復職前には人事や上司との面談などで対策を検討することが大切です。その際は、主治医や産業医の意見を提出することも効果的です。
話し合いで解決しない場合には、下記のような相談窓口を利用する方法もあります。
・厚生労働省の総合労働相談コーナー
・労働基準監督署
・各都道府県の労働局
・障害者就業・生活支援センター
・労働組合、ユニオン
・法テラス
・その他、地方自治体や民間団体など
それでも企業側が相談に応じない場合や双方の折り合いがつかない場合には、転職を視野に入れて進めていく方がよいかもしれません。
3.まとめ
休職に至った原因を分析してレジリエンスを高め、あるいは企業と交渉して対策を練ることで、復職・再就職後も安定して働ける状態が整います。とはいえ、ひとりで取り組むのは難しいと感じる方もいるかもしれません。そのようなときは、復職を支援するリワーク施設を利用するのも方法のひとつです。
リワーク施設のひとつである「ニューロリワーク」では、心と体の両面からストレスをケアしてレジリエンスを高める「ブレインフィットネス」や「マインドフルネス瞑想」等のプログラムを提供しています。復職に関する企業との交渉や調整に高い心理的ハードルを感じている場合も、スタッフの支援を受けることで円滑に進めることができます。
リワーク施設によって、提供しているプログラムや受けられる支援は異なります。利用を検討する際はプログラム内容などを確認し、見学や体験を通じてどのようなものであるかを把握しておくことが大切です。リワーク施設選びについては「ご存知ですか?「リワーク施設」復職の成功につながる施設選びの5つのポイント」でもご紹介しています。
休職に至った原因を解決してストレスを緩和・軽減する力を身につけ、安心して長く働けるよう心より願っております。
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※ニューロリワークでご提供するプログラムは、事業所や季節・時期によって異なります。
事業所ごとのプログラムは各センターの紹介ページにて掲載させていただいております。
ご興味のある方は以下のリンクよりご確認ください。
プログラム表はコチラ↓
■ニューロリワーク三軒茶屋センター
三軒茶屋センタープログラム表
■ニューロリワーク梅田センター
梅田センタープログラム表
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【参考文献・参考サイト】
・平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況
・労働安全衛生総合研究所 ストレスに関連する症状・不調の確認項目の試行的実施
・公益財団法人 日本生産性本部 働く人のメンタル・ヘルスに関する調査研究・提言
・『こころの耳』4 ストレスへの対処:ストレス軽減ノウハウ
・協会けんぽ 健康サポート|自分のストレスの度合いや受け止め方に気づこう
・日本経済新聞出版|ストレスに負けない心を作る!
・教育新聞|逆境に負けない心 レジリエンスを身につける(1)レジリエンスとは何か
・一般社団法人日本ポジティブ教育協会|レジリエンス教育とは
・NHK高校講座 | 古典 | 第33回 諸家の思想 老子 ~柔弱~
・goo国語辞書(デジタル大辞泉)|柳に雪折れ無し(やなぎにゆきおれなし) の意味
・e-ヘルスネット|ストレスコーピング
・全日本民医連|こころの健康 (4)対処の仕方 (コーピング)
・Well-Being 青山学院大学 研究プロジェクト|レジリエンス(精神的回復力)とは?その促進方法と測定方法、システム化に向けた調査
・日本司法支援センター「法テラス」|労働
(写真素材:PIXTA・photoAC)